ロンドン五輪も半ばを過ぎました。アメリカは日本のようにオリンピック一色ということはありませんが、それなりに盛り上がっています。

ただ、アメリカで日本の競技の様子を知るには、ウェブサイトのテキスト速報やツイッターが頼りです。この街で周りにいる日本人も全員がスポーツ好きというわけでもないですから、喜びを分かち合うのも、ソーシャルメディアで、となることが多いです。遠く離れているロンドンの試合会場にいる人、日本でテレビを見ている人と思いを共有するというのは、新しい楽しみ方で、新しい感覚を味わっています。このことは、オリンピックが来るたびに思い出すでしょう。2012年は、こうだったと。

今回は、様々な報道で、ソーシャルメディアが本格化して初めてのオリンピックと言われています。上に書いたような楽しみもある一方で、ツイッター上の乱暴な発言でチームを追放されるような残念な事態も起きています。国際オリンピック委員会(IOC)も、これまでよりソーシャルメディアに積極的な姿勢を見せる一方で、スポンサーや放送権を守る立場から規制もかけています。この関わりは、まだまだ発展途上ということなのでしょうね。

 

オリンピックとソーシャルメディアというテーマが語られるのを見ると、僕はいつも記者時代に取材していたある一人の選手を思い出します。

スピードスケート・ショートトラックの第一人者として長きに渡って活躍した寺尾悟選手です。少々マニアックな競技かも知れませんが、世界選手権ではメダルをいくつも取りましたし、オリンピックではメダルは取れませんでしたが、1994年リレハンメル大会から2006年トリノ大会まで4度も出場しました。

この選手は、ソーシャルメディアやブログなどという言葉が一般化するはるか前に、自らホームページをつくり、練習や試合で見たこと、感じたことを日記風に記録していました。いわば、日本スポーツ界のソーシャルメディアの先駆者です。バンクーバー五輪の代表になれなかったことを区切りに現役を引退しましたが、今も競技には別の立場で携わっており、その日記も時々更新し続けています。こちらです。1997年から日記は始まっていますね。

五輪担当記者はカバーする競技数が多く、ショートトラックは五輪シーズン以外はなかなか取材にいけなかったのですが、この日記を読むことで、彼の行動や考えをフォローしていました。特にオフシーズンにどんなことをして、どんなことを考えているのかなどを知れるのはとても興味深いものでした。取材の下調べに役に立っていたという記憶が残っています。

ある時、ウェブ上で日記をやっている意味みたいな話になった時に、寺尾選手から、記者さんたちに聞かれたことはその場で答えます、それ以外に言いたいことを日記には書いています、というようなことを聞いたことがありました。

寺尾選手はショートトラックをもっと多くの人に知ってほしいという強い気持ちを持った人でしたから、取材にはいつも気持ちよく答えてもらっていました。一方で、僕は記者として対抗心と言うか、恐怖心のようなものも持っていました。勝負の分かれ目や、変化の鍵になったところを見極めて、よい質問が出来なければ、選手に日記上で「そうではありません」と明らかにされてしまうわけです。

これって、多くの選手がソーシャルメディアを当たり前のように使うようになった今、さらに一般的になってきているポイントだと思います。マスメディアとソーシャルメディアの使い分けです。オフィシャルサイトやブログ、ツイッターなどをやるようになったからといって、選手はマスメディアとの関わりがなくなるわけではありません。オリンピックのような大きな舞台では殊更、マスメディアの影響力の大きさを実感するでしょう。インターネットをあまりやらない人、自分やその競技の熱心なファンではない人にまで、届くパワーがあります。また、マスメディアは別の人から見た客観的な評価という役割もあります。時には厳しい批判になることもあります。一方で、ソーシャルメディアは自分が直接内容をコントロールできます。取材では聞かれない胸のうちや、メディアの人が入ってこられないようなシーンの紹介をできます。ファンからの質問に答えるという直接交流も可能です。

コミュニケーション理論の一つに、「Uses and Gratifications Theory」というのがあります。それぞれのメディアを使って、受け手はどのような満足感を得ているのかという話です。受け手は知らず知らず、使い分けているわけです。逆に、発信する側である選手のうち、どのくらいがこういったことを意識しているのかなというのは、ちょっと気になります。

以前に書いたブログ記事を1本、参照として紹介しておきます。「フォロワー数の多い選手は何をしているか」

オリンピックの終盤戦は、そんなところにも注目しながら見ていきたいと思います。