秋学期も終盤を迎え、レポートやテストに追われています。
これまで学んできたことを整理し直すことが多いですが、その中で、これは大事だったなと思ったことの一つが、アメリカスポーツ史のクラスで学んだ「プロ化の前提条件」です。
ベテラン教授、Dr.Fieldingのオリジナルです。アメリカで人気の高いスポーツ、野球、フットボール、バスケットボールは自国でルールを確立し、百数十年たった今日では大きな産業になっています。ルールがほぼ完成品となってから外国人教師らによって輸入された日本とは、試行錯誤のプロセスが少し違います。
それでも、参考になる点がいろいろとあったので、書いておきたいと思います。今日の日本では、実業団の仕組みが立ち行かなくなり、それならプロ化しかないだろうという感じになっているところもありますが、このリストを見ると、仕方なく、では決してうまくいかないことがわかります。
(1)スポーツの人気
ある程度の歴史を積んで、ルールや面白さを理解できている人が一定の地理的範囲内に何十万人もいなければ、到底軌道には乗りません。1回の試合を見に来てくれる観客はファン全体のうち一握りでしかありません。従って、他国にはこの競技のプロがいるんだから、日本でもいけるだろう、というのは乱暴な議論です。たまにそういう選手がいますが…。
(2)プレーの質
スポーツのプロ化の歴史を振り返ると、当初はうまい人たちが地域(スポーツクラブ)を代表していた時期から、地域に関係なくうまい選手を集めるようになる時期があります。そこで他のチームにいる選手をひきつけるには、お金を払ったり、仕事を探してあげたりということをします。うまい人がそろっているチームは見ていて面白いので、入場料をとっても成り立つということになっていきます。楽しいからやっている集まりではなく、勝つためにシビアな組織でなければなりません。
(3)スポーツの近代化
いくつかの要素があります。ポジションや技術の分業化、ルールの標準化(しょっちゅうルールが変わっていてはみなが混乱する)、組織の階層化(統括団体がきちんと全体をまとめ、各チームにも経営者がいる)、数値化と記録(これでチームの管理と、メディアなど対外的なアピールが可能になる)。これらの要素が混乱していた時期があって、それがだんだんまとまってきたところで、初めてプロ化が安定します。フットボールや野球では当初、チームや地域によってルールが違っていたので、試合をするのが大変でした。野球では様々なリーグが分立していた時代は経営が安定しませんでした。全チームの試合数の統一とか、何勝何敗とか、個人成績があって初めていろいろ比べたりして、面白さが出てきます。
ここまでは、スポーツそのものの成熟です。以下は、スポーツを取り巻く状況の発展です。
(4)都市化
競技会場にアクセスできる限られた範囲に一定の人口がいる「都市」でプレーをすることが大事です。かつて、野球では人口4万5000人以上の都市のみをフランチャイズとするしたところからプロ化が軌道に乗っていきました。当然、住民全員がファンと言うことはないので、ある程度の規模を求めたわけです。一回きりの興行なら、小さな街でも観客が集まるかもしれませんが、それでは経営が安定しません。
(5)工業技術の発展
観客を運べる鉄道、情報を伝える新聞、結果を速報できた電信、試合時間を正確に計れるタイマー、安全な防具など。面白さを増すことを支えているのは技術です。最近ではインターネットの速報、衛星生中継がファン拡大の基本になっていますね。
(6)寡占
一つのスポーツでリーグがたくさんあった時代は、選手が違うリーグに移籍して、どんどん年俸が上がって経営を圧迫しました。選択肢が一つしかなければ、選手のゴネ得ということが起きません。また、リーグ全体を中央集権でコントロールできていることが欠かせません。大きな権限を持ったコミッショナーがいる方が、大勢の合議で進めるよりもうまくいくことが歴史の教訓であります。
(7)個人の経済力や時間的余裕
そもそもプロスポーツがアメリカで発達したのは、農業ではなく、工業化が進んでからです。働く時間が短くなり、給料で安定した収入を得られる人が増え、生活費以外にお金を使える余裕ができてからです。アフリカで簡単にプロはできないことがわかりますし、農業や漁業が産業の中心であるところにプロチームをつくろうとしてはいけません。
(8)消費を好しとする文化
アメリカのプロ野球では、キリスト教の厳格な教えを守るために、日曜日の試合の禁止や球場でのアルコール販売の禁止を守っていたリーグがありましたが、すぐに両方をOKにしたリーグに負けることになりました。日本では考えにくいことかもしれませんが。ただ、不景気でスポーツを楽しんでいる場合じゃないという世の中のムードがある時にプロリーグの立ち上げをやったりすれば軌道に乗りにくいかもしれません。
(9)教育や文化の水準
スポーツを楽しむにはルールを理解していないといけません。野球のルールなんて、結構難しいですよね。記録の見方なども結構複雑なものもあります。日本に取り入れられたときに英語をそのまま使っているものもあります。スポーツを支えるには教育や文化は必要なものです。
すでにプロ化されているものが目の前にあると、こうした前提条件はわざわざ考えないことなのかもしれません。個人的には、今プロ化されていないスポーツはどこが足りないのかを考えてみる道具になると思っています。
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Sports PR Japan 株式会社 代表取締役
13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。