夏学期の前半は先週で終了し、休みもなく後半に突入しています。以前に、ブログにも書いたように、前半はスポーツ組織論を学びました。その中で、「これはスポーツ組織に応用すべきだな」と感じたことがあったので、それを書きます。
組織にはリソースがあります。人材、資産、また目には見えない技術や文化です。そして、自社のほかの要素に比べて、優れている要素があります。これをコンピタンスと呼びます。さらにその中で「競合他社を圧倒的に上まわり、容易にまねできない能力」をコアコンピタンスと呼びます。(定義はさまざまになされていますが、Prahalad, C.K. and Hamel, G. (1990) The core competence of the corporation がその考え方の起源です)
コアコンピタンスがあるからこそ、顧客に選ばれるわけです。言い換えると、その企業が生き残ってこられた理由は何なのか、ということにもなります。
たとえば、「低価格で提供できる」とか、「製品の品質が圧倒的に優れている」とか「宣伝広告の面白さではまねできない」というような点になります。ユニクロとか、スポーツ界でいうとナイキなどが具体的な例として、わかりやすいです。
これをスポーツ団体に応用すると、面白いのではないかと思いました。
少し前には「スポーツにできることは何か?」という議論が盛んにされていましたが、そこから一歩踏み込んで、「この競技にしかできないことは何か?」「わがチームならではのできることというのは一体何だ?」と考えることにトライしてみませんか。当たり前すぎて、意外と考えていないことだったりしませんか?
観戦のアピールをしたり、スポンサー獲得を目指しているとして、「そのスポーツしか持っていない特徴を2つのキーワードで考える」ところから始めたらよいのではないかと提案したいです。いろいろあるスポーツの中で、うちならこれです、というのをくっきりはっきり打ち出せるか。そうすれば、「選ばれる理由」を自覚できます。本来の定義とは少しずれて、メッセージに近いものになるかもしれませんが。
そして、自分で少し考えてみたところ、ひとつで差別化するのは難しいですが、2つの組み合わせなら、うまく機能しそうだと感じました。あまり多いと覚えてもらえないので、記憶にとどめやすくするためにもちょうどよいです。
やってみて、真っ先に思い浮かびそうなのは、「スピード」とか「パワー」。次に来そうなのは、「チームワーク」とか「リーダーシップ」とかです。これは前回のブログに書きましたが、プレーから得られるものの基本的な要素に含まれているので、その競技固有のものとはなりにくいです。書店のスポーツコーナーに行くと「○○監督のリーダーシップ」という本がたくさん売ってるでしょう。ここで思考をストップさせては脱落です。競技数は50とか軽く超えてますからね。チーム数や選手個人になると、もっとライバルは増えます。
いつもお世話になっているブラインドサッカーを具体例としましょう。
先月行われた日本選手権のキャッチコピーは「勇気のさきに自由がある」でした。視覚障害者にとって、全力で走ることはかなりの恐怖心があるそうです。しかし、選手たちはそれを克服し、全力を尽くした激しいプレーを見せます(見たことない方はこちらを)。「その姿は、会場に足を運んだすべての人に、勇気を持つことの大切さを教えてくれました」と、アビスパ福岡の方が書いたJリーグホームタウンレポートに書かれています。
では、「勇気」だけがキーワードでいいのか、というとそうではないと思います。
たとえば、飛び込みというスポーツも、かなり勇気がいりそうです。高いところから飛び降りるのは単純にそれだけで怖いです。
そこで、もうひとつの切り口を考えます。先のホームタウンレポートによると、「晴眼者との協力がなければ成り立たないスポーツ。補助する者と補助される者という関係ではなく、晴眼者と選手が同じ立場で試合に参加し、それぞれが力を合わせることで成り立っています」と書かれています。ブラインドサッカーは晴眼者のGKやコーラー(攻める側のゴール裏に立ち、攻撃に関する情報を伝える係)が、視覚障害者とともにプレーすることがルールで決められています。これは、他のスポーツにはちょっとまねのできない点です。ここを生かしたメッセージや活動(スポ育など)を発信することで、選ばれるスポーツになっているのではないかと思います。
大事なことは自らの強みと言えるキーワードを見つけた後、それを自覚して活動していくことです。僕が知る限りでは、ブラインドサッカーでも、他国の団体で同じような活動が行われているわけではありません。すなわち、同じスポーツをやっていても、気付いていない人、考えようとしていない人、発信をしていない人もたくさんいます。自分たちの楽しみだけでやっている段階なら、何も考えずにプレーしていればそれでいいでしょう。しかし、目標を持って、その目標のために共感を得ることが必要な段階になったら、自らのコアコンピタンスを自覚して活動していかなければと進まないと思います。
野球なら、「小さいボールを棒で打つ気持ちよさ」かなとか、アメリカンフットボールなら「高い運動能力プラス高度な戦術、戦略」かなとか、同じスポーツをする仲間といろいろ考えてみると面白いでしょう。
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スポーツPRプランナー ®
Sports PR Japan 株式会社 代表取締役
13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。