前回から、少々日があきました。今回は、日本とアメリカのスポーツの大きな違いだと僕が感じたことの一つを書きたいと思います。
もうすっかり時間が経ってしまいましたが、ロンドン五輪の期間中、日本はテレビも、新聞も、雑誌も、オリンピック一色となっていたのに対し、アメリカでは、そうでもなかったんです。テレビ放映が一社独占であることもありますが、五輪だからといって、新聞の一面も、週刊誌の特集も、なんでもオリンピックということにはなっていません。むしろ、スポーツ面でも、MLBの試合や、NFLのキャンプの話題などもしっかり取り上げられていました。
4年1度しかないんだよ、オリンピックってすごいじゃない、というのが日本人の一般的な感覚かもしれません。そんな話を僕がしたら、あるアメリカ人の友人はこう言っていました。
「毎日とか毎週、試合が見られるほうが楽しいでしょ」。
言われてみれば、と言っては大げさですが、例えば、毎週欠かさずフットサルをプレーしているような人を、そのスポーツを愛している人、本当に好きな人と言いますよね。決して、一年に1回しかプレーしない人を指すことはないでしょう。彼に言われて、観戦も同じじゃないかな、と考え始めました。
この田舎のブルーミントンでも、町の人たちは、大学のバスケットボールやフットボールを楽しみにし、生きる活力にしています。高校のバスケットボールでさえも、スタンドで話すと、選手の家族や友人以外に、長年のファンというのがいます。NCAAトーナメントで勝ちあがるなど全国区の話題になれば、それこそ地元紙の一面になり、大事な試合の日はまさにお祭り騒ぎです。
日本のスポーツシーンも1993年、地域密着を理念に掲げたJリーグの誕生以降、この20年で劇的に変化したと思います。プロ野球も多くのチームが地方に本拠地を移し、そこでの日常的な話題になり、人々はそれで活力を得るようになりました。そして、最近ではそうした変化はバスケットボールなどにも波及しています。しかし、だからと言って、オリンピックのようなビッグイベントに勝てるほどのパワーを持っているかというと、そこまでは行っていません。サッカーだけを見ても、日本代表のユニフォームを着た試合(五輪代表やなでしこジャパン等を含む)の注目度が、日常的にあるJリーグを上回っているように感じます。
そして最も大きな違いは、アメリカは日常的に使う施設にお金を投じます。プロの施設はもちろん、大学の体育館やフットボール場、高校の体育館やフットボール場ですら、そうしています。例えば、1996年アトランタ五輪のメインスタジアムは、終わったら、MLBのブレーブスの球場に改築されました。アメリカでサッカーW杯を行った時は、既存の収容人数の多いフットボール場を使いました。これは余談ですが、留学する数年前に、ある大学の巨大なフットボール場を見た時、そこの人に、こんな金のかかる施設をつくって、コストは大丈夫なのか?と聞いたら、1試合での収入がすごく多いから大丈夫と笑われました。今となっては、恥かしい話です。つまり、日常的に行われているスポーツが注目度を上げ、ビジネス的にも育って、大規模なイベントに耐えうる施設になっているという形です。
これに比べると、日本は「ビッグイベント依存症」のように見えます。スポーツ施設は、オリンピックやサッカーのW杯、国体のような何十年に一度あるかというスポーツ大会がなければ、なかなか新設や改築がされません。しかも、その開催基準に合わせたものがつくられるため、その後の日常的な使用には不便な箇所が出てきます。周辺人口に比べて巨大すぎるスタンド、アクセスの悪さ、めったに使わない部屋や設備などです。今の東京五輪招致でも、「オリンピックが来たら、施設ももっとよいものができます」と、アスリートたちが訴えている報道をたびたび見かけます。感覚的な話になりますが、また、日本の施設は無機質というか、設計全体や細部に遊びがなく、1時間座っているだけで疲れてしまう感じがします。日常使いとしては使い勝手が悪いというか。アメリカのこんなの
とは違うでしょ。指定管理者制度が導入され、日本の施設も少しずつはよくなっていると思いますが。
どんなビッグイベントも終わってしまえばスタッフは解散します。施設を日常的に使っているチーム用に改善すれば、収入も増えてチームは存続しやすくなり、スポーツ産業に新たな雇用を生み出すことにもつながると思います。
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Sports PR Japan 株式会社 代表取締役
13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。