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スポーツは「記憶の民主化」とも結びつく

18.8.15

前回紹介した「スポーツ国家アメリカ – 民主主義と巨大ビジネスのはざまで」(中公新書・鈴木透著)の中で、特に印象に残った部分について掘り下げて書きます。

最後の方で、米国スポ―ツ界に見られる新たな潮流がいくつか紹介されています。アメリカでは、スポーツの試合が行われている場を、歴史的な出来事を思い出す場として使ったりすることがかなりあります。スポーツが持っているもののうち、注目度や精神的なつながり、施設を活かしています。「スポーツ国家アメリカ」の著者はそれを「メモリアルの持つ記憶装置としての機能を肩代わりし、連帯の意思を表明する機会を提供する」と位置付けています。そして、それが「観戦するスポーツのみならず、するスポーツという次元においても「記憶の民主化」と結びつき」ということを新しい流れとして紹介しています。

「記憶の民主化」というのは社会学的な表現ですが、「何を記憶すべきかを一般市民の目線で判断し、自らその営みに参加し、社会にその認知を求めようとする」と説明しています。

例えば、ボストンレッドソックスの試合が行われているフェンウェイパークで、2013年のボストンマラソン爆破事件での犠牲者を追悼するイベントが行われるのは「観戦するスポーツにおける記憶の民主化」です。

一方で「するスポーツにおける記憶の民主化」の例として取り上げられているのが、「オクラホマシティ メモリアル マラソン」です。1995年に同地で起きたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件の犠牲者を追悼するランイベントとして、2001年から始まりました。ことしは4月29日に開催されましたが、ゴールデンウィーク中で、現地で見ることができましたので、少し書きたいと思います。

大会前日で準備中のスタート地点

コースの立体模型

 

そもそもオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件の追悼は、現場の跡地を利用したメモリアルホールがあります。同地を訪れた人が必ずと言って足を運ぶ場所でもあり、私も訪れました。その展示も伝わってくるものがあったのですが、展示を見るというのは傍観者の立ち位置です。

一方で、ランイベントに参加するというのは、主体的な行為です。年に1回、このイベントに参加することで、悲惨な事件のことを思い出し、二度とこのようなことがあってはならないとの思いを強くする。少なくとも、数多あるマラソン大会の中で、なぜこれを選ぶのかについては考えを巡らせることになります。「何を記憶すべきかを一般市民の目線で判断し、自らその営みに参加し、社会にその認知を求めようとする」行為、「記憶の民主化」に他なりません。

上の写真にあるスタート地点は、メモリアルホールの真ん前です。コースの下見をすれば、慰霊碑も目に入ってきます。街を走れば、この静かな街で、なぜそんなことが起きたのかという思いにもかられます。テレビで事件を知っていた程度の私でさえ、頭をよぎるわけですから、近隣に住んでいる人やもっとはっきりと当時のことを思い出せる人にとっては、もっと重たい、大切な機会になるでしょう。

それでいて、スポーツイベントですから、決して暗くはなりません。頑張って走るランナーには、アメリカらしい沿道からの温かい声援やボランティアの助けもあります。走り終えた充実感は、「悲しいことはあったけど、これからは」という前向きな気持ちを生み出します。

 

広報・PR的な観点からも、当日の報道などから、上記以外にも学ぶべき点がいろいろありました。「スポーツ周りの可能性を動かす」をビジョンに掲げている私は、日本でも、別の国でもこのようなスポーツイベントの設計に携わりたいと思っています。

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この記事の執筆者

早川 忠宏

早川 忠宏 | Tadahiro HAYAKAWA

スポーツPRプランナー ®
Sports PR Japan 株式会社 代表取締役

13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。

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