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学生募集も地域連携、企業連携にも強くなる。「スポーツ広報」が大学経営を変える理由

25.4.29

少子化が進む中で、大学を取り巻く環境はより厳しくなっています。学問分野やキャンパスの立地、就職実績だけでは、選ばれにくい中、「選ばれる大学」になるために、大学の個性や魅力をいかに伝えるのか。

その中で近年、大学のブランド価値を高める切り札として注目されつつあるのが、「スポーツの力」。

実は、体育会活動やスポーツ研究には、大学の魅力をわかりやすく伝える要素が数多く眠っています。それらを戦略的に広報に活用することで、志願者の増加、地域との連携強化、産学連携の強化にもつながる可能性があります。

この記事の目次

なぜ今、スポーツが大学の経営資産となるのか

感動資産としてのスポーツ

スポーツで大事なことは、勝ち負けや記録だけではありません。挑戦や努力、仲間との絆、家族との結びつきといった、“感動”を内包しています。世界的なビッグスポーツイベントなどの中継や報道には、それがよく現れています。大学スポーツでは、箱根駅伝のテレビ放送が代表的な例です。ヒューマンストーリーで描かれたスポーツは、大学が発信する様々な情報の中でも、人の心を動かす別格の力を持っています。

高校生、保護者、地域に届く分かりやすさ

スポーツは老若男女問わず、共通のものとして理解できるコンテンツです。国境を超えて、一つのスポーツの熱狂が広がる。世代を超えて、語り合える。日常生活ではほとんど意識していませんが、当たり前に行われています。誰にでも分かりやすく、感情的に伝わります。マスメディアの報道に加え、写真や動画が多用されるSNSとの相性も非常に良いです。

大学内の組織横断的な価値創出が可能

スポーツなら体育会活動、教育、地域貢献が有機的に結びつきます。一つの活動を行い、それを広報することで、大学の様々な側面の魅力が一度に伝わります。その中には学生の努力、挑戦、成長も含まれており、それは大学教育そのものの価値を示しています。スポーツでは特に、それが見えやすく、分かりやすいのです。

スポーツや健康の研究は社会の価値

スポーツ関連の研究、たとえば、パフォーマンス解析、健康に関わる課題、ジェンダーとスポーツ、パラスポーツなどは、大学の社会的な価値を証明する財産です。これらを広報で外部に伝えることによって、社会に貢献する大学としての認知拡大にもつながります。

スポーツ広報がもたらす経営的メリット

ブランド価値の明確化と差別化

選手やチームが活躍し、それが報じられると「あの大学は○○で有名だ」と認知する人が増えます。また、その中には大学の環境における人の成長、物語も含まれており、それに感動すると、人の心に残ります。すなわち、その人、そのチームを応援したくなり、応援したくなる大学へと印象が変わります 。

志願者増、歩留まり向上への波及効果

SNS 経由で感動が一気に広がるのが現代です。特に高校生の年代は、マスメディア以上にその世界で多くの時間を過ごし、そこで情報収集も当たり前に行っています。若い世代は、理念や世界観に共感できるブランドを好む傾向があることが様々な調査で明らかになっています。スポーツを通じて大学の価値観や文化を表現し、それが伝わると、高校生の“感情スイッチ”を押す大きな武器になります。

地域連携、企業連携の加速

スポーツは、地域と連携した活動を行ったり、企業と連携したプロジェクトやイベントを創りやすい題材です。スポーツの明るく楽しい雰囲気の中で、活発に意見が出て、積極的に活動する若者も多いです。その時間を共有する学生や子供たちらの笑顔も、写真や動画で可視化されます。見える活動が地域や企業の信頼を産みます。

一体感、誇りの醸成

スポーツは、チーム全員が力を合わせて頑張るもの。また、一つのチームを学年や世代を超えて応援するのは、喜怒哀楽にあふれています。自分の大学名を大きな声で叫んだり、校歌や応援歌を歌うのは、スポーツ以外ではあまり見られないことです。スポーツは学内の一体感や誇りを育みます。インナーブランディングとしての効果は抜群です。

スポーツを活用して大学の姿が変わる─事例紹介

大学における「スポーツ広報」は、単なる情報発信を超えて、ブランド価値を変革する力を持っています。スポーツを軸とした広報活動によって、大学の印象や社会との関係性がポジティブに変化している事例が国内外で生まれています。3つの大学の取り組みを紹介します。

● 大阪体育大学|「人」にフォーカスしたスポーツストーリーで共感を広げる

体育会部活動の試合現場で取材した高品質な記事と写真を、大学サイトだけでなく「スポーツナビ」にも掲載。Yahoo! JAPAN 傘下の国内最大級スポーツメディアでの露出により、大学の認知と信頼感を大きく向上させています。特に、抑揚のないレポートではなく、選手の想いや考えに焦点を当てたストーリー性のある発信を徹底。これにより、高校生や保護者が大学に抱く印象にも好影響を与えており、進学先としての共感形成にも成功しています。SNS連携による情報拡散も含めて、ブランディングを強く意識した戦略的な情報発信の例です。

● 九州国際大学|SDGsと連動した部活動広報で地域の信頼を獲得

九州国際大学は、大学全体でSDGsに注力する中、サッカー部は地域での清掃活動などの社会貢献を継続的に行っています。学生たちはこの活動を通じて、地域住民と自然な形で交流し、スポーツの枠を超えた学びと成長を体験しています。この活動は、部のSNSでの発信にとどまらず、学外での活動が、地域住民の目にも触れることで、大学そのものへの信頼感や好感度の向上にも寄与。広報=発信と考えがちですが、体験そのものがブランドになることを示した例です。

● インディアナ大学(米国)|男子バスケットボール部を多面的な戦略的広報ツールに

5度の全米制覇を誇る男子バスケットボール部を、大学広報の中核として活用。個人よりチームを重視する哲学を体現するユニフォームデザインや選手名を入れない伝統を通じて、大学の価値観を視覚的に表現。同部は大学を超え「インディアナ州の精神」を象徴する存在として位置づけられています。試合ではプロスポーツ並みの様々なプロモーション活動を展開して、ファン体験を向上。一方で、ブラスバンドを使った応援など伝統を守ったり、卒業する選手を称えるイベントを通じて、大学の人材育成のストーリーを伝達。技術面では最先端施設で3D映像やVR技術も駆使し、学生たちが革新的なコンテンツを制作。SNS戦略では、感情に訴える瞬間を捉えたコンテンツで、ファンの感情をかき立てています。さらに近年はNIL(名前・画像・肖像権)を活用した企業パートナーシップを強化し、選手と大学と企業の三者が利益を得る仕組みを確立。単なるスポーツチームを超え、学生募集、卒業生エンゲージメント、企業や地域社会との関係構築など、大学経営の多様な側面を支える戦略的広報ツールとなっています。

これらの大学に共通するのは、スポーツの価値を戦略的にコンテンツ化し、発信している点です。大学の個性や魅力を伝え、ステークホルダーとの関係を深める手段として、スポーツは非常に強い力を持っていることが見えてきます。

経営層が取り組むべきスポーツ広報戦略の第一歩

■ スポーツを「見える化」して、大学の資産に変える

まず重要なのは、体育会活動やスポーツ系研究を記事や映像といったコンテンツとして“可視化”し、経営資源化することです。
それも、ただ試合結果や研究成果を伝えるだけでは、人々の心には届きません。
「どんな学生が」「どんな想いで」「どんな成長を遂げているのか」──
あるいは、「その研究をどんな想いで続けているのか」といった、“人間”を丁寧に描いたストーリーが求められます。
そうしたストーリーを、大学公式サイト、SNS、広報誌、外部のメディアなどで多角的に展開することが、大学のブランド価値を高める第一歩となります。

■ 学内部局を“横串”でつなぐ

次に求められるのは、学内の点在するスポーツ関連資源を“線”にする構成力です。
体育会、学生支援部門、教務、研究推進、地域連携など、大学にはスポーツに関わる取り組みが複数の部署にまたがって存在しています。
広報もまた、部局をまたいで設計すべき戦略機能のひとつ。それぞれの部署の活動を横断的に見られる組織変更を行う。広報の発信は、学内でも見られて、横の動きに気づく機会も増えます。そして、広報が点在する取り組みをひとつのブランドストーリーに再構成することで、発信の一貫性が生まれ、大学全体の印象にまとまりが出ます。

■ 目的を明確にし、成果がわかる仕組みを

戦略的にスポーツ広報を進めるには、目的の明確化と、成果の可視化も重要です。PV数、SNSの反応数、メディア露出件数など、定量的な成果指標(KPI)も設定し、モニタリングできる体制を整えることで、学内の関係者との共有や改善サイクルが回しやすくなります。学内の様々な部署に対しても、広報に関わった成果が伝わりやすくなります。

■ トップメッセージで「大学としての意志」を示す

そして何より大切なのは、経営陣自らがスポーツの価値を語ることです。
学長が大学公式SNSで体育会の活動に対して、温かくも力強いコメントを寄せる。体育会OB・OGの活躍にコメントを出す。
また、スポーツを通じた包括連携協定を外部と結ぶといった施策も強力なメッセージです。
こうしたトップからのメッセージは、学内外への強いシグナルとなります。
スポーツは大学にとって重要な“顔のひとつ”との認識を、言葉で明確に示すことが、広報全体の基調となるのです。

うまくいかない大学によく見られる3つの課題

どれだけ活動を行っていても、どれだけ結果を出していても、伝わらなければ“存在していない”のと同じです。
スポーツという魅力的なコンテンツを持ちながら、その価値を十分に社会に届けられていない大学には、よく見受けられるいくつかの課題があります。

1|結果報告・事実の羅列に終始し、「ストーリー」が欠けている

うまくいかない大学の広報に最も多く見られるのが、「結果報告で終わってしまう」ケースです。
大会での成績や研究発表の内容は掲載していても、「どんな背景があったのか」「なぜこの挑戦をしたのか」「どう成長したのか」といった“物語”の要素が欠けていては、見る側に感情は動きません。すなわち、大学の魅力は伝わりません。
共感を呼ぶには、“人間”が主役であるストーリーテリングが不可欠です。それが書けていて初めて、広報は「伝わる」ものになります。

2|現場任せ・広報室任せにして、連携がない

もう一つの課題は、広報が「それぞれの部活動任せ」もしくは、「広報室に丸投げ」になっていることです。
部活動が学生によってSNSアカウントを運用しているのは珍しくありません。しかし、それぞれがバラバラの質で伝えていては、大学のブランドにはなり得ません。中には、日々の活動で手いっぱいで、めったに更新されないところもあります。戦略的に発信を設計する機能がなく、情報が点在し、統一感のない“散発的な発信”に終わってしまうのです。スポーツ広報は、「活動報告」ではなく、大学のブランド資産を構築するための経営戦略の一部として設計されるべきです。

3|動画や映像など、視覚的なデジタル資産を活かしきれていない

そしてもう一つの大きな課題が、写真や動画といった視覚的なデジタル資産の活用不足です。
スポーツは、熱量や感動といった「非言語の魅力」を持つコンテンツです。特に高校生の年代は、SNSに上がる写真や動画が最も身近な情報源です。画像、ショート動画などを活用してこそ、スポーツの真価は伝わります。こうしたコンテンツは、ハッシュタグやキーワードで検索され、オンライン上に蓄積すればするほど“大学の感動資産”として価値を持ち、入試広報やファンドレイジングなど他の分野にも波及していきます。

これらの課題に共通する本質的な問題は、「広報=情報を発信すること」だと捉えている点にあります。
本来、広報とは相互交流で、伝わるように設計して反応を得るもの。感動や共感が伝わるためには、対象ごとの発信内容、ストーリーデザイン、メディア特性の理解、タイミング、感情への配慮など、きわめて専門的な知見と戦略性が必要です。「スポーツ広報は、大学の感動資産として、経営層が戦略の一部として見る領域」という認識こそが、成功の第一歩となります。

「スポーツ広報」は大学の新たな経営資産

スポーツには、人の心を動かし、共感を生み、一体化をつくり、行動を促す力があります。
それは単なる部活動や一部の学生の取り組みにとどまりません。大学の文化や理念を体現し、その魅力をわかりやすく社会に伝える「大学ブランドの顔」としての力を持っています。

この“感動資産”は、志願者の増加、地域・企業との関係強化、学内の一体感醸成など、大学経営のさまざまな側面に波及効果をもたらします。

今、スポーツを戦略的に位置づけ直すときが来ています。

「スポーツ広報」は、厳しい環境下にある大学の持続的な発展を支える新たな経営資産であり、未来をつくるための強い力となり得るのです。

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この記事の執筆者

早川 忠宏

早川 忠宏 | Tadahiro HAYAKAWA

スポーツPRプランナー ®
Sports PR Japan 株式会社 代表取締役

13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。

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