7月24日に発行されたばかりの書籍『エックスジーニアス 確率と統計で観るサッカー』(ジェームズ・ティペット著)を読みました。
プレミアリーグを舞台に、統計や確率の分析に基づく意思決定が戦術、強化、経営など多方面でサッカー界をどう変えたかが描かれた一冊です。
読んで改めて実感したのは
「常識破りには、広報PRが欠かせない」 ということでした。
当初は、物理や数学の博士号を持つ分析担当者がクラブに加わっても、監督や選手に受け入れられませんでした。
しかし、統計分析を武器にスポーツベッティングで巨万の富を築いた人物がクラブを買収してオーナーとなり、統計分析を意思決定の中心に据える経営を開始。イングランドのクラブ、ブレントフォードとブライトンは、こうしてサッカー界の「常識」を破っていきました。
3部相当のリーグに所属していたクラブを買収したのち、ブレントフォードは成績を伸ばし、2015年シーズン後半にはプレミアリーグ昇格の可能性が見えてきました。当時は「監督の手腕のおかげ」とファンやメディアは考えていましたが、経営陣は統計分析によって「実力以上の結果が出ている」と把握しており、その監督はデータ活用を拒んでいました。
そこで経営陣は、データに基づいて戦術や選手に合う監督を選ぶという、一見“常識破り”の決断を下します。ファンからは批判を受けました。メディアからは「奇妙なオーナー」と批判されながらも、プレミアリーグで結果を出したことで評価は一変しました。
ブレントフォード、そして同じような道をたどっているブライトンの両クラブは、「年俸総額が成績を左右する」というサッカー界の常識を覆したのです。
名門リヴァプールは、再建にこの経営手法を用いました。オーナーはMLB・レッドソックスを再建した時に統計分析の力を知っており、買収後のリヴァプールにも導入。
統計から「結果は出ていないが、内容は上位レベル」と見抜いて、ドイツからユルゲン・クロップ監督を招聘。統計分析にも理解がありました。南野拓実選手や遠藤航選手の加入を含む補強戦略にも統計分析を活用しています。
いまやプレミアリーグでは、監督や選手、テレビ解説者も「分析」を基に語るのが当たり前になりました。
私自身も、日本ブラインドサッカー協会で広報を担当していたとき、常識破りに挑戦する体験をしました。
2014年、東京・渋谷の代々木公園のフットサル場で世界選手権を開催。
「障害者スポーツに観客は集まらない」と言われていた時代に、仮設スタンドを設け、有料チケットを販売しました。
当時の協会の身の丈を考えれば、「大きな賭け」でしたが、結果は予想を超えました。
日本戦は全試合完売
初日は関心が薄かった大手メディアからも、翌日には取材依頼が殺到
最多で100人近い報道陣が集まり、大きな話題になったことが観客動員を後押し
会場周辺を通りすがった親子が「ここでブラインドサッカーやってるらしいよ」と話す声を耳にしたとき、「広まった。常識を破れば、人の見方は変わる」 と確信しました。
サッカーにおける統計分析も、ブラインドサッカーの挑戦も、最初は理解されませんでした。
しかし、貫いて、語り、発信し、信じてもらえる人を増やすことで、常識破りは世の中に受け入れられました。
だからこそ私は、2021年に、自社の経営理念のビジョンをこう定めました。
「スポーツに関わる常識破りの価値を広め、常識にする」。
『エックスジーニアス』を読んで、改めて自分の役割を再確認しました。
挑戦を続ける人や組織にとって、広報PRは不可欠な武器なのです。
サッカーの統計分析の物語で描かれているように、常識破りは最初は理解されにくいものです。
しかし、粘り強く語り続けることで、それはやがて常識になります。
スポーツでも、ビジネスでも。
「非常識だ」と言われる挑戦に光を当てるのが、広報PRの本当の役割だと私は考えています。
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Sports PR Japan 株式会社 代表取締役
13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。