
スポーツの仕事に携わっている方は皆さん、ファンを増やしたいという気持ちを持っていると思います。私自身も、そうした相談を受けます。
ただ、「スポーツファン」とひとくくりに考えても、それぞれの競技やチームのファンを細かく見ていけば、違いが数多く存在します。その顧客をしっかりと見つめることは非常に重要だと考えています。
一方で、日本のスポーツファンの特徴を、もっと大きな視点から捉えることも、大いに役立つのではないでしょうか。私自身、この前提を頭に入れて考えることで、打ち手の精度が変わってきました。
今回は、2000年代の日本のスポーツ界で起きた3つの事実をもとに、日本のスポーツファンの特徴について考えたいと思います。いずれも、海外ではスポーツファンが大きな市場を作ったのに、日本ではうまくいかなかったケースです。
その1:ファンタジースポーツが定着しない
ファンタジースポーツとは、実在するプロスポーツ選手で架空のチームを作り、選手の実際の成績をポイント化して競うオンラインのシミュレーションゲームです。選手を多く、詳しく知っていることやプレーの特徴を理解する必要があり、さらに、年俸に比べて成績が良い選手を見極める目利き力も試されます。
私自身は、2005年にアメリカに取材に行った際、プレスルームで現地の記者がそれを話題にし、プレーしている画面を見たりして、その存在を知りました。
日本では、2003年から2015年にかけて、Yahoo! 上でJリーグ公認データ(ゴールやアシストなど)を使ったサッカーのファンタジースポーツを無料でプレイすることができました。私も試しにやったことがあります。選⼿パフォーマンス分析データ「J-STATS Opta」を普及させる意味もあっただろうとは思います。
しかし、リニューアルしたものの人気は伸びず、2015年にサービスは終了。Yahoo! 系列の「スポーツナビ」は、2001年にファンタジーベースボールも始めましたが、2003年末に終了。その後も他社が参入しては、数年で撤退する状況が続きました。
その2: 予想しない「BIG」で売上が急増した
日本スポーツ振興センターが運営するスポーツくじは、2001年にJリーグの結果を予想する「toto」として全国展開されました。しかし、一時は642億円あった売上が、2006年度には134億円まで減少。
そこで、同年から予想しないコンピューター任せ(運任せ)の「BIG」を販売開始。一等賞金も当初の3億円から、10億円、今は12億円と高額に設定。くじのバリエーションが増え、2021年度には売上高が約1100億円にまで膨らみました。
その3.:動画のカードコレクションが売れない
最後は、最近の事例です。アメリカではプロバスケットボールNBAの公式ライセンスを受けた動画NFT「NBA Top Shot」が大変人気となりました。いわば「動画版デジタルトレーディングカード」で、ブロックチェーン技術によって所有証明書が発行され、売買可能になったものです。2020年のサービス開始から1年足らずで累計売上高7億ドル、ユーザー数は100万人を突破しました。
この成功を受け、日本でも同様のサービスに挑戦した企業がありました。サッカーではDAZNが「DAZN Moments」というJリーグのデジタルトレカサービスを2022年3月から開始。しかし、わずか2年後の2024年3月に中止となりました。Bリーグのデジタルトレカも模索中の段階です。
これらの三つの事実から言えるのは、日本のスポーツファンは「競技を深掘りしない」傾向が強いということです。
徹底的にデータを分析したり、名場面をデジタルカードとして所有する意欲は、全体的に低いのです。他の点では、SNSで盛り上がるスポーツネタも、競技そのものより周辺の話題やツッコミ的な内容が多くを占めています。他国に比べて、競技やチームよりも、選手個人のファンが多いという傾向もあると長く言われています。
私自身の体験としては、アメリカでMLBブリュワーズのファン感謝祭に参加したときのことが忘れられません。ステージ上のGMや監督、コーチにファンが質問する内容は、まるでスポーツ記者のように深い分析を踏まえたものばかりでした。詳しくは昔のブログに書いていますが、目の肥えたファンの存在を実感しました。また、球場では老若男女問わずスコアブックをつける人が目に入り、売店でもスコアシートと鉛筆が販売されていたのも覚えています。日本では、まず見かけません。
話を戻すと、日本のスポーツファンは「薄味」だと言えます。競技を深く知ろうとする意欲が、全体的にそれほど強くないのです。選手や運営サイドは、自分たちと大きなギャップがあることを意識しなければなりません。
そして、この前提に立ったうえで、観客数を増やすための企画を考えると良いのではないでしょうか。一例は、ライトなファンが楽しめる仕掛けを増やすことです。誰でも直感的に楽しめる企画や、参加のハードルを下げる工夫とも言えます。例えば、試合中の体験をその場でシェアしたくなる仕掛けをつくることなどが挙げられます。