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Angel City FCに学ぶスポーツチームのブランディング戦略─勝利より存在意義が企業価値を生む理由

26.7.12

スポーツの現場では、「勝てばすべてが変わる」という言葉をよく聞きます。
強くなれば観客は増える。スポンサーも増える。メディアにも取り上げられる。だから、まずは勝つことが大事だ。負けて喜ぶファンはいません。競技力はスポーツクラブにとって重要です。

しかし、アメリカには、その順番を逆転させて成功しているクラブがあります。
女子サッカーリーグNWSLに所属するAngel City FCです。

この記事では、NWSLのAngel City FCを事例に、スポーツクラブのブランディング、スポンサーシップ、地域貢献、そしてスポーツPRの観点から、なぜ同クラブが高い企業価値を生み出したのかを考察します。

Angel City FCは2020年に設立され、本拠地はロサンゼルス。ナタリー・ポートマンをはじめ、女性セレブリティや著名アスリートが多数出資したことでも知られています。現在では、3億8,000万ドルと女子スポーツ史上最高額の企業価値を持つクラブとなり、約3,670万ドルでNWSLでもトップクラスの売上を上げています。

公式サイトや経営陣のインタビューを読み進める中で、他のスポーツビジネスとの決定的な違いが見えてきました。
Angel City FC最大の特徴は、「存在意義を経営の中心に置いているスポーツクラブ」であることです。

サッカーは目的ではなく、手段

スポーツPRの視点から見ると、これは非常に強力です。

PRを、情報を発信する単純な仕事と考えてはいけません。組織が「何者として社会に認識されたいのか」を設計し、その認識が伝わるような、広がるような行動を積み重ねていく仕事です。

多くのクラブでは、競技が中心にあり、その周辺に地域活動(地域貢献)があります。広報活動の優先度もそのようになっているでしょう。しかし、Angel City FCでは、地域貢献そのものが経営であり、ブランドであり、スポンサー価値を生み出す仕組みになっています。

Angel City FCにとって、サッカーをすることは目的ではありません。女性のエンパワメントを軸とした地域課題の解決という存在意義が先にあります。サッカーは、それを実現するための手段としています。ここが、大きな違いです。

スポンサーシップは存在意義を実現する仕組み

Angel City FCは、年間300回以上の地域活動を行っています。中心にあるのは、子ども世代を含めた女性のエンパワメントです。仕組みも明確です。

サッカークラブは地域団体に対して、「何が足りませんか」「何に困っていますか」と聞きに行きます。そして、その課題を解決するために、クラブが動きます。特徴的なのは、スポンサー料の10%を地域活動に使うと決められていることです。

スポンサー企業は、どの分野の地域活動に自社の資金を使うのかを主体的に選ぶことができます。スポンサー料は確実に、社会価値を生み出す原資になるのです。

こうなると、スポンサーは同じ社会や未来を実現するパートナーと位置付けられます。

報告ではなく、可視化、証明

Angel City FCのSNS等を見ると、地域活動は映像で記録され、専用チャンネルのような形で公開されています。写真と短い記事で報告するより、映像制作には手間がかかります。編集も必要です。時間も費用もかかります。

このクラブにとって、地域活動を映像化することは、社会的役割を可視化することです。

「私たちはこういうクラブです」と言葉で説明するのではなく、「実際にこういう価値を生み出しています」と映像に映る子どもたちの表情や、感謝の声で証明しているのです。すべての活動が、クラブの存在意義を証明するコンテンツになります。

地域活動の実践はコントロールできる

スポーツの勝敗はコントロールできません。しかし、地域活動の質と量はコントロールできます。どの課題に向き合うのか。誰と組むのか。どのように解決するのか。Angel City FCは、コントロールできる社会価値の創出を積み重ね、それによってファンやスポンサーとの関係を強くしています。

地域活動を続ける。映像で可視化する。新しい地域団体が関心を持つ。スポンサー企業が共感する。さらに活動が広がる。

この循環で、クラブのブランド価値を高めているのです。参入初年度の2022年には約1,200万ドルだったところから、4年で年間売上高を約3倍にしています。

理念を掲げるだけではブランドにならない

日本のスポーツチームにも、もちろん理念はあります。地域密着を掲げるクラブもあります。社会貢献を大切にしているチームもあります。スポンサーと一緒に地域活動を行う例も増えています。

しかし、Angel City FCから最も学ぶべきなのは、存在意義が経営の中心に組み込まれていることです。

理念を掲げる。

そこまでは、多くの組織が取り組んでいます。しかし、その理念がスポンサー営業、地域活動、広報、コンテンツ制作、パートナー選定にまで一貫して反映されて、実践されているかどうかが大事なのです。

Angel City FCは、本気で社会課題を解決したいわけではなく、イメージ向上や見せかけの社会貢献を目的とする企業とは契約しないとしています。お金のために自分たちの芯を曲げない。何をやるかだけではなく、何をやらないかを決めて貫く。

これもスポーツクラブのブランディングです。

PRとは、存在意義を社会に証明し続けること

Angel City FCの事例を、「アメリカだからできる」「有名人が出資しているから特別だ」などと片づけてしまうのは、もったいないと思います。日本とは、市場規模も違います。文化も違います。女子スポーツを取り巻く環境も違います。ロサンゼルスという都市の特性もあるでしょう。

しかし、学べることはあります。

「自分たちは何のために存在するのか」を決めること。
その存在意義に沿って、やることとやらないことを決めること。
日々、愚直に実践すること。
そして、その価値が見えるように発信し続けること。

その積み重ねによって、クラブは「応援される理由」を持つことができます。私が考えるスポーツPRは、情報発信ではなく、存在意義を社会に証明し続ける経営活動です。Angel City FCは、そのことを徹底して、一貫して実践しているクラブです。

「あのクラブは特別だ」で終わらせるのではなく、自分たちのクラブなら何を証明できるのかを考えてみる。その問いから、本当のスポーツPRは始まるのだと思います。

 

<参考資料>

Angel City FC公式サイト
Fast Company “How Natalie Portman and her Angel City FC cofounders are changing the game for women’s soccer ”
Fast Company “World’s Most Valuable Women’s Sports Team

 

 

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この記事の執筆者

早川 忠宏

早川 忠宏 | Tadahiro HAYAKAWA

スポーツPRプランナー ®
Sports PR Japan 株式会社 代表取締役

13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。

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