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革新する速報を見た

10.12.2

2018年と2022年のサッカーワールドカップの開催国が決まりました。

日本もアメリカも立候補してましたから、自分の将来の仕事に関わるかもしれませんし、また、記者時代には「速報」という緊張感あふれる現場の取材も何度も経験してきたので、発表には人並み以上の関心を持っていました。アメリカ東部時間では2日の午前中の出来事で、僕はESPNのホームページで速報を見ていました。これが面白く、「速報は変わったなあ」と感じたので、紹介しておきます。

そのESPNのページは発表記者会見の生中継の映像の下に、ライブチャットがついていました。現場のESPNの記者2人と、サイトを見ている人が相互交流できるようになっていました。これにより、ともすればつまらない内容になりかねない発表が、随分と面白く感じました。

 

(1)見る人を繋ぎとめる

日本で生で中継を見ていた方もいたかと思いますが、発表は予定より28分遅れで始まりました。中継の映像は流せません、。しかし、その遅れの間をライブチャットでつないでいました。このメリットは「見る人を逃さない」ということです。発表が始まるまでに取材したネタを出したり、サイト上の予想の投票結果に触れたり、「今、誰々が会場に入ってきた!」「どんよりした空気のイギリス代表。落選?」みたいな感じで会見場の雰囲気を伝えていました。サイトを見ている人は「何で始まらないの?」という疑問を持っているわけで、それに答えられる仕組みがあったことは素晴らしいと思います。これはテレビのレポーターの中継でならできるかもしれませんが、ライブチャットではもっと気さくな感じでやってました。そして、コストはウェブの方が比べものにならないくらい安いです。

(2)情報の精度は落ちるかもしれないが早い

ESPNのニュースサイトと違って、ライブチャットは「もう少し低い格付けのメディア」というイメージ、もしくは「雑談に近い」とのイメージを発信者側も受け手の側も持っているのではないでしょうか。なので、ここではウラを取る(一つの情報を別の人にも聞いて確認すること)をせずに、情報をどんどん出していきます。

例えば、ESPNの記者は始まって19分に「イギリスが1回目の投票で落ちたとの噂が流れている」と、つぶやいています。この時点では、発表の壇上には誰も上がっていません。当然、中継も始まってません。加えて、「AP通信の○○記者も、イギリスが落ちたとTwitterでつぶやいた」などとやっていき 28分に発表会が始まって、FIFAの事務局長がしゃべっている31分になって「BBCがイギリス1回目の投票で落選を確認」と流しました。ブラッター会長が「ロシア」と発表したのは37分ですので、かなり先んじています。

ウラの取れていない情報は「報道」じゃないのでは、との疑問はわかります。旧来の考え方ではそうなるでしょう。しかし、現代のメディアは違う局面に入っていることを僕はこの日実感させられました。こうしたニューメディア時代のメディア論は別の機会に改めて書きたいと思いますが、精度が多少落ち、うわさレベルだとしても、断片的な情報であったとしても、教えてもらった方が情報の受け手は助かります。

(3)受け手とのやりとりで話が発展する

2022年のカタールが発表されたのは44分。その直後から2人の記者は解説に入っていきます。「新しい国にサッカーの遺産を残したいという気持ちの表れ」とか「イギリスとアメリカの方が確実に稼げたはず」とか「しばらく批判は続くだろうけど、ブラッター会長はなぜFIFAがこの2つを選んだのかをうまく説明した」というようなことを加えていきます。「一番広い国から4年後に一番小さい国か。crazy」というような軽いコメントもありました。

今までのメディアなら、これらはテレビで解説者がコメントを付け加える形か、もしくは翌朝の新聞で読んだことだったでしょう。それらとの決定的な違いは、受け手も同じようにそれぞれの印象を書き込んでいく点です。それによって話が発展していきます。この2カ国に決まって、おそらくほとんどが米国在住者と思われるESPNのサイトを見ていた人はネガティブな反応が多いなということも伝わってきます。書き込みを読んで、「確かにその通り」というようなコメントを記者が返すことも行われてました。「今、現場の雰囲気は?」という質問も中継前と中継後にはよく出ていて、今までは知ることができなかったそうした部分を知れるのもよかったです。

これら一連の流れは、「速報」する場合の現場記者と会社内にいる指示役(デスクと言います)のやりとりにすごく似ていると思いました。ただ、そのやりとりをしている相手が社内のデスクではなく、サイトを見ている人つまり情報の受け手と直接やりとりしているという大きな違いがあります。

そして、欲しい情報は記者のセンスだけに基づいて一方的に出すのではなく、受け手にも主導権があって、現場に頼めるという、旧来のメディアにはなかった姿を示しています。ここが「新しい」のです。

試合の経過を追いながら感想をネット上でやりとりするライブチャットはよくありますが、それとも違うメディアの使い方です。

ひょっとすると「革新」と呼ばれることかもしれません。

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