日本の「なでしこジャパン」フィーバーはまだ続いているようですね。
僕は、これが日本の女子サッカーの長期発展につながることが大事だと考えています。この機に初めて試合を見に行った人がリピーターになってくれることがその土台です。
ただし、女子スポーツには絶対に避けられない宿命があります。
それは
観客に、同じ競技の男子のプレーと無意識のうちに比べられてしまうということです。
選手全体を平均すれば、パワーやスピードで男子と体力差があることは否めません(だから、男女分けてプレーしているのです!)。遅くプレーしているように見えたり、パスの距離など非力さが気になってしまいます。女子スポーツとはそういうものだと割り切れる人やその競技のコアなファンはともかく、入門レベルのファンの中には「何か物足りない。迫力に欠ける」と思ってしまう人も少なくないでしょう。入門レベルの人ほど、少ない回数で離れてしまう可能性は高いわけで、その層を繋ぎとめることが、継続的な発展への鍵だと考えられます。
では、どうすればいいのか。
僕の提案は、「プレー以外の側面も加味してアピールする」です。
ヒントは、昨年から日本で始まった女子プロ野球にあります。
アメリカに来る前に、1試合観戦しましたが、遠くへ打球を飛ばす力、外野からの返球などパワーがなくて大変そうだなというのが第一印象でした。しかも、かつて何試合も学生野球を観戦した西京極球場。僕も知らず知らずのうちに、そうした男子の残像と比べてしまっていたのでした。しかし、見ているうちに、一つとても引き込まれることがありました。選手全員が本当に一生懸命にきびきび動き、とても礼儀正しいのです。高校野球にも、そうしたイメージがありますが、もっと徹底されて、「お客さんのお陰で、私たちはここでプレーさせてもらえている」というのを全身で伝えているというような雰囲気でした。
それに加えて、選手のひたむきさや一生懸命さを、分かりやすく伝える仕掛けもありました。選手個々がどのように野球に取り組んできたかのストーリーをマンガで紹介する小冊子が選手全員分用意されているのです。「今のあの子のグラウンドでの一生懸命さの陰には、こういうことがあったんだな」と共感を増します。さらに、「○○選手デー」として、一人の選手にスポットを当てて、試合前にわざわざ一人で決意表明したりもします。ここまでされれば、プレーのパワーが足りないとか遅いとかではなく、選手の一生懸命さに目がいきます。
ただし、これをまねするのは容易ではありません。プロモーションの企画として、アイデアだけ使わせてもらえればうまくいくものではありませんから。このメンタリティーを含めて徹底させるのはすごい努力をされているのだろうと思います。
ユーチューブで見た動画や僕の数少ない女子サッカー取材経験をからすると、今話題になっている日本の女子サッカー選手は全体として、女子プロ野球選手とはちょっと違う印象があります。さばさばしているというか、ぶっちゃけているというか、親しみやすさというか、そのへんが魅力だと思います。だから、お弁当のCMがついたり、商店街で買い物しているというエピソードがしっくりくるのでしょう。
逆に言うと、親しみやすそうだから、今ガンガンお客さんが来ているのかもしれません。あまりのフィーバーでかなり大変そうですが、近寄りがたい雰囲気だと思われた瞬間にブランド価値は崩壊してしまいます。とにかく、しんどくても、一人ひとりのファンと心を繋いでいくこと、もう少し踏み込むと、サインとか、握手とかのレベルではなく、今のJリーガーがあまりやってなさそうなこと、女子高のようなノリを貫くとか、公園でサッカーしている子供たちの輪に突然入ってしまうとか、そこまでやるのかという親しみやすさに踏み込んだらチャンスが広がると思います。そこまでやるのか、ということなら、マスメディアにも取り上げてもらえます。
そして、ターゲット顧客は、女性のほうがいいのではないでしょうか。あのさばさばした感じは、最近の若いモデルなど、女性に人気のある女性に通じるものがあるように思います。少し前に、このブログで紹介しましたが、女性ファンの潜在力は高いです。やりがいのあるチャレンジになると思います。
このようなことを書くと、男子ではそんな手は使っていないじゃないかという批判も出そうですね。
しかし、例えば、アメリカのプロのボウリングリーグ、PBA(トップ選手はほぼ全員男子です)は選手個々のキャラクターを前面に押し出すマーケティング、プロモーションをやっています。ストライクを取った後のポーズとか。「ボウリングってスポーツ?」という問いに答えた動画とか。全体的に、挑発的な感じですが、それがブランディング戦略なのです。ストライク連発では、初心者の目に映るプレーで個々の明確な差をつけるのが難しいからではないかと僕は推察しています。
「プレー以外をアピールするなんて邪道」と言って、先細りになるのと、出来うる範囲でプレー以外もアピールして プロとして継続していけるのと、どっちがいいでしょうか?
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Sports PR Japan 株式会社 代表取締役
13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。