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世界のスタジアムにアートが存在する理由とは? 豪華な空間を探る

21.2.19

私はスタジアムに行くことが大好きで、スポーツ記者になって世界中の様々なスタジアムを体験することができ、本当に良かったと思っています。2010年で記者を辞めて、広報PRに転職した後も、その情熱は変わらず、この10年で、のべ200カ所(同じ会場で別イベントを見ることがあるので、「のべ」です)の海外の現場を訪れました。

新型コロナウィルス感染拡大により、海外に簡単には行けなくなってしまいました。また、無観客や観客数を大幅に制限して、スポーツが続けられている状況です。何の心配もなく、楽しみにできるようになるのがいつかもわからず、私と同様にスタジアムに行けなくなってしまった寂しさを味わっている人も少なからずいると思うので、これまでスタジアムで見つけたことや考えたことを、不定期で書いてみるつもりです。

私は自社のビジョンとして、「スポーツと様々な分野がもっと当たり前に繋がる世の中に」を掲げています。だから、スタジアムのマニアックな話になりすぎるのではなく、何か他の分野と交わるようなお話をしていくのが、自分らしいと考えました。

 

初回のテーマは、「スタジアムにあるアート」にしました。

私は別にアートに詳しいわけではないので、シンプルにスタジアムの中でアート作品を見掛けた時に思ったことを書きます。

「アート作品がいっぱいあったな」と、真っ先に思い出すのは、アメリカのテキサス州にある「AT&Tスタジアム」です。プロフットボールNFLダラスカウボーイズの本拠地であり、私が見てきた中でも文句なしの豪華なスタジアムです。カウボーイズは経済誌フォーブスが毎年発表する世界のスポーツチーム資産価値トップ50で5年連続トップとなっています。2020年8月に発表されたものですと、その額は約55億ドル。このスタジアムは、その価値の一部とカウントされています。

アート作品は屋外にオブジェがありましたし、入り口のロビーにも電光を使ったアートがありました。普通は銅像があるくらいです。

このスタジアムでは、天井や壁に現代アートの作品がいくつも飾られています。私が参加した(スポーツファン向けの)スタジアムツアーではなく、アートを見るためのツアーまで定期的に行われています。

 

写真を撮っただけでなく、なぜ、このようなアート作品がスタジアムに置かれているのかと考えてみました。
置かれている場所は、招待してもらわないと入れないような、最も高額のシーズンチケットを持っている人たちがいるエリアです。試合前にゆったりと飲食などをしながら社交ができるラウンジがあり、そこに上がっていく壁や天井に作品があります。美術館のように、制作年や作者、タイトルも書かれています。

 

NFLはアメリカの四大スポーツの中でも最もリッチなスポーツで、試合となれば、そこには地元の有力者、チームのOB、スポンサー関係者などが集まり、試合の前後は社交をしています。そういう人達のコミュニケーションの場に、アート作品が添えられているわけです。ツアーのガイドの説明で、その日の様子を想像しました。スポーツやそのチームはもちろん話題になるのでしょうが、アートに関して教養がある、アートについても語れるということが、その場にふさわしい人と見なされるわけです。スタジアムの一部分ではありますが、試合前にバーベキューをしていたり、ユニフォームを着て大声を出して応援しているのとはまったく違う人達がそこにいます。

 

こういうアートが置かれているのは、最新のスタジアムだからじゃないか、ものすごくお金持ちのスタジアムだからじゃないか、と私も思っていたのですが、実は昔からあるということを、別の現場を訪れて知りました。

 

ロンドンにあるローズクリケットグラウンドのスタジアムツアーに参加した時のことです。このグラウンドは、1814年から200年以上使われています。長い歴史と伝統が感じられる「クリケットの聖地」みたいな場所で、私がツアーに参加した時も、インド、シンガポール、オーストラリアなど遠方から来ている方がほとんどでした。

クリケットは、日本人にはまったくなじみがないスポーツですが、試合時間が最長5日間という、実にゆったりと行われるスポーツです。それだけ長いので、選手たちも食事の休憩だけでなく、ティータイムまで取ります。勝ち負けではなく、参加者同士が交流することが大事だと言う考え方です。スタジアムには、見ている人達も飲食を楽しむラウンジがあります。

壁には、クリケットに関する様々な絵画が飾られています。ガイドからは、あの絵がこのような場面を描いていて、などと説明してもらえます。絵画は、ゆったりと社交をする場所の雰囲気を作る一部であり、その絵をきっかけに会話が弾むことももちろんあるでしょう。昔は高貴な人しかプレーしない、高貴な人しか観戦しないスポーツでした。絵画を鑑賞する教養は持ち合わせているわけです。ちなみにこの歴史と伝統を感じられるラウンジは、試合がない日にも貸切で、食事会や茶話会を開けるようになっています。

このスタジアムは廊下にも、様々な絵画が飾られています。こちらは主に、選手が出入りするところにありました。ここで行われた試合の場面であったり、歴史に名を残した選手の肖像画です。ガイドの説明によると丁寧にホーム(地元クラブ、イングランド代表)側とアウェイ側が出入りするエリアで分けられて、それぞれの階段のスペースにその選手達の肖像画を飾っているとのことでした。肖像画を残してもらえるということは、選手にとっても大変名誉なことです。どの画家に描いてもらえるのかというのも、注目のポイントの一つだそうです。ガイドが、クリケットをプレーするという子供に「アーティストがイメージを決めるのだから、スポーツ選手であっても良い関係を築きなさい」と話していました。

これらのアートやそれが置かれている場所を見て、私が思ったことは、「日本のスタジアムに社交はあるのか?」ということです。昨今、スタジアムの収益性を高める観点から、VIPルームやラウンジの充実が議論されていますが、それでは、肝心なことが抜けているのではないでしょうか。ラウンジは、当然ながら社交のスペースであり、まずは会話が盛り上がるように設計すること。アートはその場でのコミュニケーションの中で、重要な役割を果たしていること。そこに集う人たちは、アートも理解して語れる教養ある人々であること。

スタジアムをいくつも訪れていると、こんなことに出会ったりします。

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この記事の執筆者

早川 忠宏

早川 忠宏 | Tadahiro HAYAKAWA

スポーツPRプランナー ®
Sports PR Japan 株式会社 代表取締役

13年間の記者経験と米国留学を経て広報に転身。日本ブラインドサッカー協会で初代広報担当として認知度向上に貢献し、PR会社でのコンサルタント経験も豊富。スポーツビジネスに特化した広報支援を展開し、メディアとクライアントへの深い理解を基に、ブランディング強化や認知度向上をサポート。スポーツ関連団体や企業に対する柔軟な対応で、成長を目指すスポーツ関係者から高く評価されている。

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