スポーツのカンファレンスやセミナーに行くと、スポーツ事業部やスポーツ専門部署を新たに設けた企業が増えていることを感じます。私が会ったことがある業界だと、人材派遣、建築・設計、エンタメ、旅行があります。また、自治体でも、オリンピック・パラリンピックが行われる東京はもちろん、地方でもスポーツイベントの誘致などのために、スポーツ担当が置かれたところもあります。

新たにスポーツに仕事で関わる必要が生まれた方が勉強に来るのが、カンファレンスやセミナーで、こちらも百花繚乱。東京なら、行こうと思えば、毎週行けるくらい増えています。

背景には、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、何らかスポーツに関わろうとする企業が増えたことがあると思います。加えて、スポーツ庁が旗を振り、スポーツをビジネス化し、成長産業として重点を置くと公言して、支援等を行っていることもあります。この国は、役所がやると言ったらみんなが動く国です。

1990年代からスポーツのプロになると決めて、現場に関わってきた私からすると、随分変わったなあと感じます。と同時に、カンファレンスやセミナーで耳に入る会話で、スポーツの仕事を安易に考えていて、危なくないのかなと思う時もあります。

 

スポーツの専門性を身につけるのは、そう簡単なことではありません。カンファレンスやセミナーにいくらか行ったところで、自分の仕事に役立つスポーツの専門性がわかるものではありません。面白かった、面白くなかった、しか感想が出ないようでは行く意味もありません。

カンファレンスやセミナーのコンテンツの多くは、最近の事例しか話しません。その人の過去の経験、組織としての積み重ねなども、その事例の背景にはありますし、登壇者以外の人の経験値が役に立っているかもしれませんが、そこは時間の関係上、すっ飛ばされてます。言うまでもないですが、未来にその成功事例と同じような状況が揃うこともまずありません。事例の要素をバラして考え、自分の仕事に役立つ点を見つけることができるようになるには、相当の時間が掛かります。

それから、本人の持っている経験や知識の多寡で、同じ話を聞いていても、得られる内容や浮かぶ発想は当然違ってきます。あまりにスポーツの知識が少なくて、さっぱり理解できていないことも、新たな担当者なら起きてもおかしくないです。自分の経験を踏まえて付け加えると、大学院でスポーツマネジメントを勉強することも、経験や知識の多寡で全然得られるものの深さが違ってきます。学ぶ内容は、即効性のあるものではなく、理論や歴史など、考える土台を形成するものなので、セミナーとは違いますが。私の場合は、アメリカのスポーツの有名人や歴史の知識が同級生に比べて圧倒的に少なくて、非常に苦労しました。このブログの昔の記事に書いている通りです。

あと、学術的な本を読むのも大切です。私の場合は大学時代に、スポーツ社会学、スポーツ経済学、スポーツ経営学、体の構造やトレーニング法、栄養学、メンタルトレーニングなど分厚い本を読んだことが、その後の仕事で役に立ちました。アメリカの大学院で、スポーツコミュニケーション、スポーツマーケティングなど、さらに新しい理論を学んだことも大きかったです。学会には今でも出席しています。今起きていることが、なぜそうなっているのかを分析的に見る目が、養われていると思います。理論から打ち手の精度を上げることもできます。歴史を学んでいれば、しない失敗もあります。例えば、プロスポーツは、なぜホームタウンを決めるのかなどです。

 

他の分野と違って、最も怖いのは、スポーツ関係の仕事って、自己流でやりたくなってしまうところです。そもそも明るく、ワクワクする現場です。部活やサークルでスポーツをやってきた、ファンとして長年スポーツを見てきた、だからわかっていると思って始める人も多いです。長くやって来ていても、その競技やスポーツを深く考えていないことはあります。練習時間の長さと考えの深さは比例しません。

 

スポーツの専門性なくして、スポーツの仕事をするのは危険です。その専門性を身につける道は、積み重ねしかありません。本を読む。歴史を勉強する。詳しい人と会話を重ねる。数多くの現場に行く。それらが重なり合っていく中から、スポーツの仕事に役立つ発想は生まれます。