アメリカでジョージ・フロイド氏が警官により殺害されたことを契機に、アメリカ中で、Black lives matter(「黒人の命も大切だ」の意)運動が拡大しています。その影響は世界各地に広まっていて、日本でもメディアに取り上げられています。

先週、再開されたプレミアリーグのハイライト動画を見ていた時に気づいたのですが、両チームのユニフォームの背番号の上に「Black lives matter」という文字が書かれていました。これは、プレミアリーグがこの差別撲滅の運動に賛同することを示しています。また、NBAワシントン・ウィザーズの八村塁選手を含むメンバーが地元で行われたこの運動のデモに参加し、チームとしてのスタンスを示しました。他にもさまざまな選手がこれに関して発言をしたり、パフォーマンスをしたり、立場を表明しています。
アメリカでは、プロフットボールリーグNFLのコミッショナーが声明を発表したり、USサッカーが過去の行動を反省する声明を発表する動きまでありました。政治に関することや社会問題に対して、選手個人が明確にスタンスを示すことはありましたが、今回はチームやリーグ、協会などの単位でも動きが出ています。スポーツ界の人間が社会問題に対する運動に参加したり、意見を表明することが、ここまで世界中に広まった例は、あまり記憶がありません。スポーツ選手が「政治のことはよく分かりません」「社会問題はよく分かりません」と言っていられる、もうそういう時代ではないという象徴的な出来事のように感じています。

PR会社で働いていた時、大企業が環境問題への取り組みや、差別などの社会問題に対して、どのようなスタンスなのかをNGOに問われた場合に、どう説明すればいいのかというのが、一時期、ホットなテーマになっていたことを覚えています。
中には、過激な行動も厭わない団体から標的にされることもあり、企業からの回答に満足がいかなければ、世の中に晒され、企業のイメージを大きくダウンさせることになります。例えば、製造プロセスにおいて子供を労働力として使っていることが発覚した場合、環境に害を与える素材を使っていた場合など、商品を燃やすパフォーマンスを見せられたり、不買運動につながるケースもありました。
「良い商品を一生懸命作っているからいいじゃないか」だけでは、通用しないのです。公の存在として、社会の一員として「この問題をどうお考えですか」「実際にどんな対策を取っているのでしょうか」と、突きつけられるわけです。近年では、大企業はSDGsへの取り組みを積極的に公表することが当たり前になっています。

今回の件では、NIKEなどスポーツブランドも印象的な動画やメッセージを発表するなどしています。NIKEは、自らのスタンスを明確にする尖った会社として、ここまで成長してきました。かっこいいデザインのTシャツを売るとか、機能性の高いシューズを売るということだけではない。そういうポジションをとり続けている企業です。今回の「Black lives matter」 とも関係する、アメリカンフットボール選手のコリン・キャパニックを使った2018年の広告キャンペーンは、実にこの会社らしい打ち手でした。

今回の「Black lives matter」運動は、社会問題へのスタンスを表明することが、企業から、スポーツ選手、チーム、団体まで広がった、という受け取り方をしています。その裏側には、インターネットというメディアの発達、SNSが当たり前になったというテクノロジーの変化、社会の変化があると考えます。スポーツの選手やチーム、団体というのはSNSのフォロワー数でも現れているように、注目度が高く、社会的な影響力が大きいです。つまり、公の存在として見られることは避けられません。そして、SNS上でコメントされたり、疑問を呈されることは可視化されています。
先月、こちらのブログで、「コロナ後のスポーツビジネスはどう変わる?(1)」という原稿を掲載しました。その中で一つの変化として「スポーツ界の人間が社会に役立つことより具体的に考え、実践する」と挙げました。選手がSNSを通じて注目度を高め、現役中や引退後もその注目度を活かしてビジネスなどを展開することと、社会問題へのスタンスを問われることは表裏一体だと思うのです。応援するのかは、人格を見て判断される。企業と同様に問われているわけです。

スポーツ界も旗幟鮮明が求められる時代になりました。
「一生懸命プレーするだけです」は、もう通用しなくなりつつあるのではないでしょうか。