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研究者と実務家の違い

11.6.6

学会で考えたことシリーズ、その2です。

初めての学会でいくつもの研究発表を聞いていて、気がついたことがありました。

発表の最後に、「この研究結果を実際の現場で役立てるとすると」というのを付け加える人が何人もいました。たとえば、この消費者行動の研究結果は、マーケティング担当者に役立つと思います、と言った形です。

それから、発表の最初は必ず「私はこういう点に疑問があります」とか、「こういう仮説を持っています」という提示をします。今のスポーツマネジメントの世界を見ていて、疑問に思う点について掘り下げるというのは研究でも実務の世界でも同じです。たとえば、前回取り上げたように、「スポーツは社会貢献にどのように役に立っているか」というのは、研究者も実務家も同じような着眼点ではないでしょうか? 少なくとも私はこれまでにそうした疑問を現場の人から聞いたことがありました。

しかし、ここから先のどこに重点を置くのかが違っていました。

実務の世界は、結果を重視します。上記の例で言うと「チームや選手の知名度の高さが、受け手が社会貢献活動を実際に行う比率の高さと強い相関関係にある」とわかることが一番大事なのです。過程は、あまり気にしないように思います。じゃあ、同じことをするのにも人気の高いチームに頼んだほうがいいのだな、と信じて、打ち手を考えたり、提案書を書いたり、交渉をしたりということに時間とエネルギーを割きます。

一方、研究の世界は、結果が出るまでの過程を重視しているように見えました。発表が終わった後の質問で、「サンプルはそれでよかったのか?」「他の研究と比較しなければ、その点ははっきりしないのではないか?」「こういう観点が抜け落ちている」というものが多かったようです。まず大事なのは正確さです。「本当に強い相関関係にあるんですね」という念押し。誤った方法で解いていたら、答えは間違っています。

また、同じような研究でも、解き方の鮮やかさ、斬新さ、わかりやすさというのもよく見られているようでした。社会科学だと少々話がややこしいですが、数学にたとえて言うと、問題を解く時に、ある公式を知っていたら短時間でできて間違えないのに、知らない場合は数字をこねくり回すようなややこしい解き方になってしまって、最悪の場合は間違えている、というのに似ています。先行研究や分析のモデルをうまく組み合わせると、より効果的な統計調査ができて、すっきりとした関係図ができあがるというのがあるようです。(研究の世界について語るのは自信のない文末になってしまってますが…)

 

そんなに何年も時間をかけなくていいから、おおよその答えが早く、たくさん知りたい実務家。

何年かかろうと正確さを突き詰めなければならない研究者。

この考え方のギャップが埋まらないのは永遠の課題なのかもしれません。

ある出席者の方に聞いたところ、この学会にもかつてはスポーツマネジメントの現場の人がたくさんいたり、スポンサーをしたりしていたそうです。しかし、近年はそうした現場とは一線を画し、「科学」であることに徹している雰囲気があるようです。アメリカはスポーツマネジメントが進んでいると言われていますが、発展した先がこれでは悲しいです。

社会人として現場を見てきた後に理論を学んでいる僕からすると、現場でどう使えるかをイメージすると理論はものすごく頭に入りやすいです。「この理論を知っていれば、もっと楽にできただろうに」と悔しく思い出す場面が、いくつもあります。(つい先週も、「リーダーシップは生まれ持った素質である、という考え方は大昔に否定されている」と知って、衝撃を受けました)

学会では、現場で役に立ちそうな研究成果をたくさんみました。実務家が研究者の正確さを尊重できるかは、単に心がけの問題で、可能だと思いますが、どうでしょうか。

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